保育士をしていて

「なんで私の園にはこんなに保育士が少ないのだろう」

と疑問に思ったことはありませんか?

実はそれはあなたの園だけではなく、どの地域においても保育士不足は起こっているのです。

ではなぜ、子どもの成長を近くで見守ることができ、とてもやりがいのある保育士ですが、なぜ保育士不足が深刻化しているのでしょうか。

この記事では、

  • 保育士がどれくらい不足しているのか
  • 保育士の就職率と離職率
  • 保育士不足による待機児童問題
  • 保育士が不足してしまう原因
  • 保育士の不足を止めるための政策

など、保育士不足について詳しく解説していきます。

きっとこれを読めばなぜ保育士が不足しているのかがわかると思うので、しっかりと読んで今の保育士の状況を考えていただけたらなと思います。

保育士不足の現状と保育士の就職率や離職率

そもそも保育士はどれくらい不足しているのか。

少し古いデータにはなってしまうのですが、平成29年度末の保育士の不足人数は、日本全国で7.4万人だといわれていました。

そこから3年程経った現在も、保育士の不足数はあまり劇的な変化を遂げているとはいいにくく、保育士を確保するために政府が新たな制度を設けたり、保育士として現在務めている人が離職しないような政策を打ち出しています。

保育士が年間でこれだけ不足してしまっている原因は、

  • そもそも保育士として就職したいと思っている人が少ないこと
  • 保育士として就職をしても早期退職してしまう割合が高いこと

が挙げられます。

保育士の就職率

平成29年4月に厚生労働省が発表したデータによると、保育士資格を取得した学生のうち、保育園に就職した人の割合は51.5%とおよそ半数だったことがわかっています。


(参考:厚生労働省「魅力ある職場づくり」

一度は保育士を夢見て、専門学校や保育士資格を取得できる大学に進学したものの、それを実際に叶えた人は半数ということです。

また、表右の棒グラフにあるとおり、責任感の重さや保護者とのコミュニケーションなど、保育士ならではの理由が挙げられています。

保育士になるためには教育実習が必要ですが、実際の現場を見たことで、「私には保育士は務まらない」と考えてしまう学生が多いのです。

保育士の離職率

保育士資格を取得して実際に保育園に就職した人のうち、就職から5年未満の早期退職者は全体の半数に及んでいます。

(参考:厚生労働省「魅力ある職場づくり」

一般企業と違って、保育士は体力勝負でもあるので、20代の若いうちにしか働けないと思う保育士が多いことも事実ですが、保育士を早期退職してしまう理由には、他にもいろいろあります。

(参考:厚生労働省「魅力ある職場づくり」

保育士を早期退職してしまう理由の第1位は、生きていく上で最も重要ともいっていい、賃金問題です。

第2位には、体力勝負の保育士ならではの、自身の健康や体力への不安という理由があることも分かりました。

しっかり休むことができれば、平日はなんとか頑張ろうという気にもなるのですが、第3位に入っている「休暇が少ない・休暇が取りにくい」環境ですと、日々の疲れが蓄積され、それが体の負担に繋がるということも否めません。

さらに、自分の子どもを他の保育園に預けてまで、他人の子どもをお世話するメリットは?と考えてしまう新米ママも多いといいます。

保育士が就職から5年以内の早期退職者が多いのは、賃金の問題はもちろんですが、30歳を目前にして体力の低下が見えてきたこと、結婚出産をしたことによって、生活環境が変わったことが挙げられます。

保育士不足と待機児童問題

保育士が不足しているといいますが、実は保育士の有効求人倍率は、令和1年11月のデータで3.23倍です。

同時期の全職種における有効求人倍率は1.65倍なので、実は、保育士になろうと思えばなれる時代でもあるのです。

(参考:保育士の現状と主な取組

有効求人倍率が3.23倍というのは、保育士になりたいと考えている人1人に対しての求人が3件弱あることを指しています。

いわゆる売り手市場で、保育園を選ばなければ、保育士になれるチャンスは必ずあるといってもいい状態です

ですが、先ほどお伝えしたとおり、そもそも保育士になりたいと考えている学生などが減っている時代なので、保育士の数がなかなか伸びていないのも現実です。

共働き家庭が増加している昨今、国としては多くの保育園を新設し、待機児童を減らしていきたい考えですが、それには保育士が必ず必要になってきます。

以下は、平成30年4月と10月の時点での待機児童数を表したものです。

(参考:厚生労働省「平成 30 年 10 月時点の保育所等の待機児童数の 状況について」

幼稚園には入園できない年齢(保育園や認定こども園しか預け先がない3歳未満児)の待機児童数が多いことが分かります。

3歳未満児の待機児童率を下げるためには、保育園の新設や既存の保育園の規模拡大は欠かせません。

それには、保育士の数を増やすことも必須になってくるのです。

保育士が不足してしまう4つの原因

保育士が不足しているのは、実際の就職率の低さ、早期退職者の多さも原因です。

では、どうして就職率が低かったり、離職率が高かったりするのでしょうか。

主な原因は、

  • 給料が低い
  • 給料と就業時間が見合っていない
  • 女性特有の人間関係
  • 責任が重すぎる

の4つです。

それぞれ具体的に見ていきましょう。

原因①:給料が低い

保育士は、一般企業と比べて給料が低いといわれています。

(参考:保育士の現状と主な取組

この図の通り、保育士は全職種と比べても、月収も年収も大幅に低いことがわかります。

保育士として何年も勤務していくとなると、生活のことや将来のことが気になって転職を余儀なくされたり、そもそも就職自体を見送る発想になってしまうのも頷けますね。

原因②:給料と就業時間が見合っていない

保育士不足の問題点として賃金の次に大きな問題視されているのが、就業時間の長さや、持ち帰り仕事の多さです。

ある調査によると、週に1回程度、自宅に仕事を持ち帰っている保育士の割合は、83.8%だという報告があります。

その中には、毎日のように仕事を持ち帰っている32.8%の保育士も含まれており、オンオフが付けにくい職場環境が問題視されているのです。

たとえば、仕事を自宅に持ち帰ったとしても、残業手当はもちろん付きません。

かといって、職場で残業をするにも限度があったり、早く帰るよう催促されたりします。

これらの矛盾を解決するためには、全保育士が就業時間内に仕事が終わるよう、人員を増やして1人1人の負担を少なくするか、きちんと残業手当を支払ってある程度の残業を許可するかの2択です。

保育園は一般企業と違って、何かを販売して利益を得る企業ではありません。

それなので、人件費に費やせるお金が少ないという問題点があります。

「給料と就業時間が比例している」と全保育士に思ってもらうためには、国の力が必要になってきます。

原因③:女性特有の人間関係

保育士は平成の半ばごろから、かつての「保母さん」という職業名を変更して「保育士」となり、その結果、男性保育士も多くなってきました。

ですが、保育士の大半を占めているのは女性です。

一般企業であれば、男女比率がほぼ半々だと思いますが、保育園の場合はそれが1:9や2:8など、明らかに女性中心の職場といっても良いでしょう。

学生時代から薄々感じていた人も多いかと思いますが、女性が数人集まると、陰口が始まったり、陰湿なイジメが勃発したりします。

大人になってからも女性特有のその性質はほとんど変わらないので、陰湿なイジメなどが起こるケースが一般企業よりも高いという問題点があります。

原因④:責任が重すぎる

保育士は、他人の子どもをお預かりする仕事です。

自分の子ども以上に責任を感じ、一生懸命に子どもの成長を手助けしてあげなくてはなりません。

保育園児は、近隣の公園などにみんなで歩いていくケースがありますが、一瞬気が抜けただけで、園児の命に関わってしまいます。

さらに、アレルギーを持っている子どもや、持病を抱えている子どももいて、それぞれの子どもに注意の目を向けて過ごさなくてはならないのです。

また、子どもたちは長時間、保育園の中で過ごします。

保育園に通っていない未就園児が、家庭で教わるようなことを保育園で教えなくてはなりません。

たとえば、トイトレやご飯の食べ方、挨拶の仕方、お友達との関わり合い方などです。

無事に小学校に上がってもらえるよう、子どもたちの成長を1から手助けしていかなければならなく、そこに責任の重さを感じてしまう保育士も少なくありません。

保育士不足のない世の中を作るために国が行っている3つの政策

ここまで、

  • そもそも保育士になる学生が少ないこと
  • 保育士として働き出しても5年以内で退職してしまう人が多いこと

が原因となり、

  • 保育士が現状で7万人ほど不足していること
  • それにより待機児童問題がなかなか解決しないこと

という負のループに陥っている日本の現状を紹介してきました。

待機児童問題が解決する兆しが見えなければ、そもそも子どもを産もうと思う人が減る可能性もあります。

そうなると、日本の将来が大変なことになるのは容易に想像できますよね。

では、日本の将来のことを考えて、政府はどのような対策をしているのでしょうか。

ここからは、保育士不足を少しでも解消するために政府が打ち出している

  • 保育士確保プラン
  • 保育士キャリアアップ研修制度
  • 保育士確保集中取組キャンペーン

この3つの政策を見ていきましょう。

保育士確保プランの主な内容

厚生労働省は2015年1月、保育士不足から来る待機児童問題を打破するため、保育士確保プランなるものを制定しました。

保育士確保プランの最終目標は、制度が制定された2015年から2年後の2017年までに、保育士を6.9万人確保すること。

そのために、

  • 国全体で保育士がどれくらい必要なのかの調査
  • 現保育士の人材育成の強化
  • 保育士の給料の待遇を改善
  • 既に退職している保育士への再就職支援の強化

を国としてしっかり制度を設け、保育士になりたいと思う人や、保育士として働いてみたいと思う人の確保に努めようとしたものです。

前述の目標を実現するために、以下の6点の政策を行いました。

  • 保育士試験を年2回実施する
  • 保育士試験を受験するための講座費用を支援する
  • 保育士資格が取得できる学校などに就職促進支援をする
  • 保育士の給料の処遇改善をする
  • 保育士の再就職を支援する
  • 既に他の国家資格を保有している人は試験科目を一部免除する

保育士試験に関しては、それまで年に1回でしたが、それを年2回にすることで、受験生が1回の受験に対して感じるハードルを下げることに繋がります。

さらに、保育士試験を受験するために、多くの学生が講座を受講することになりますが、その講座受講費用を国が負担してくれます。

この2点だけを見ても、他の一般企業などに就職するよりは遥かに恵まれた環境だということが分かりますよね。

さらに、保育士として一度は働いたことがある人向けのセミナーや、再就職するにあたっての出張相談会なども設け、即戦力となる人材確保も強化しています。

保育士キャリアアップ研修制度の主な内容

政府が行っている2つ目の政策は、2017年度より登場した、保育士の昇格をサポートするためのキャリアアップ研修制度です。

この制度が発足する前は、多くの保育園で

  • 保育園長
  • 主任保育士
  • 各クラス担任

という3つの役職しか存在していませんでした。

そもそも一般職員が、そう簡単に園長にはなれませんので、実質2つの役職です。

しかし、この制度が設けられたことによって、

  • 副主任保育士/専門リーダー
  • 職務分野別リーダー

この2種類の役職が各保育園に新たに加わることになり、保育士は実質4つの役職に就ける可能性が広がったのです。

一般企業と同じで、役職に就けば給料や手当がもらえます。

キャリアアップ研修制度は、保育士の給料を上げることはもちろん、保育士のやる気やモチベーションが上がる期待も持たれています。

副主任保育士や専門リーダーになるためには

  • 保育士としての実経験を7年積むこと
  • 職務分野別リーダーを経験していること
  • キャリアアップ研修を修了すること(後述)

以上の3点をクリアする必要があります。

保育士は早期退職者が多い職業ですので、7年の実績を積むことはそう容易いことではないかもしれません。

ですが、長年働いているからこそ就ける役職があるというのは、保育士のやる気アップに繋がるのではないでしょうか。

職務分野別リーダーになるには、

  • 保育士として3年以上勤務していること
  • キャリアアップ研修を修了していること(後述)

以上2点が最低条件になります。

若手でも役職に就けるというだけあって、多くの期待が寄せられている役職でもあります。

では、ここまでに登場してきた「キャリアアップ研修」とは?の答えをご説明します。

キャリアアップ研修は、

  • 乳児保育
  • 幼児教育
  • 障害児保育
  • 保健衛生・安全対策
  • 食育・アレルギー
  • 保護者支援・子育て支援
  • 保育実践
  • マネジメント

以上8分野で構成されていて、1分野につき15時間以上の研修時間が義務化されています。

  • 副主任保育士になるためには、マネジメント+3つ以上の分野の研修修了
  • 専門リーダーになるためには、4つ以上の分野の研修修了
  • 職務別リーダーになるためには、保育実践&マネジメント以外の6つのうちどれかの研修修了

これが必須条件です。

これらの役職に就くことによって、手当てが上乗せされることになります。

  • 副主任保育士/専門リーダーの場合、月4万円以上アップ
  • 職務分野別リーダーの場合、月5千円以上アップ

副主任保育士や専門リーダーに就けば、月4万円以上も給料がアップするのは、嬉しいですよね。

保育士のやる気にも繋がるのではないでしょうか。

保育士確保集中取組キャンペーンの主な内容

3つ目の保育士確保集中取組キャンペーンですが、

こちらは厚生労働省は、2019年1月から3月にかけて、保育士数をさらに伸ばすために実施された政策です。

保育士確保集中取組キャンペーンのポイントは、

  • 現在、保育士として働いてくれている人の離職率を減らす
  • ブランクのある保育士資格保有者に再び働いてもらう

ということです。

現在、保育士として働いてくれている人の離職率を減らすため、民間の保育所で働いている保育士の給料を5%改善する制度を設けました。

前述のとおり、保育士の給料は全職種と比べても圧倒的に低い数値なので、それを改善していこうというものです。

さらに、勤務先の保育園がより働きやすい環境になるために、勤務状況の改善にも取り組んでいます。

ブランクのある保育士資格保有者には、即戦力として現場復帰してもらうため、現場復帰のための研修制度を設けています。

これが保育士確保集中取組キャンペーンです。

まとめ:保育士不足は待機児童問題に繋がる!だからこそ保育士確保を目指そう!

最後にご紹介した国の政策は、今現在も続いています。

保育士の給料も、まだ低い数値ではあるものの、少しずつ適正給料をもらえるようになってきています。

保育士資格を保有している方は、せっかく取得した資格なのですから、それを生かした仕事をしてもらえたらと思います。

それが、将来の国のためになります。

これから保育士を目指そうとしている若者も、ぜひ、日本の将来を支える子どもたちの成長を見守る、とてもやりがいのある保育士という職業に就いていただきたいです!