保育士不足の一因として挙げられることの多い、離職率の高さ。

保育士として働いてきたけれど、なんらかの事情で離職という道を選ぶ保育士は少なくありません。

実際に保育士の離職率はどのくらいなのか、そして離職を選ぶ理由は現在保育士として働いている人にとっても気になるところです。

この記事では厚生労働省の調べから、保育士の離職率と離職理由を解説します。

そして実態を知る中で見えてくる、長く保育士を続けていける職場選びについても見ていきましょう。

保育士の離職率の割合は採用率よりも高い

平成27年に厚生労働省が発表した「保育所保育士の採用者と離職者」によると、平成25年の保育士離職率は保育所全体で10.3パーセント

一方採用率は15.2パーセントとなっています。

参考:厚生労働省 保育士等に関する関係書類

この結果を見ると、離職率よりも採用率の方が高いので保育士の人数は足りているようにも感じますがそうではありません。

認可保育所は基本的にはなくなることはありません。

しかし、増えることはあります。特に昨今の待機児童問題、そして保育所不足解消のために新たな認可保育所が増加している状態です。

そのため、新たに保育士になる人がいたとしても、離職する人も多い状態では保育士不足は解消されません。

実際に、平成27年には保育士の有効求人倍率は1.93倍

東京都に限って言うと、5倍を超える有効求人倍率です。

参考:厚生労働省 保育士等に関する関係書類「保育士の求人・求職の状況」

有効求人倍率とは、求人数を働きたい人の人数で割ったものです。平成27年の場合には、保育士として働きたい人の約2倍の求人があるという状態に。

更に離職率は、公立保育所と私立保育所でも違います。平成25年の公立保育所の離職率は7.1パーセントに対して、私立保育所の離職率は12.0パーセント

退職者数を見てみると、公立保育所の平成25年度の退職者数が8,330人なのに対して、私立保育所の退職者数は24,493人です。

私立保育所に比べて給与面の待遇や勤務時間、有給取得などの体制がしっかりとしているために、定年まで勤める保育士が多いと言われている公立保育所。

離職率と退職者数からも公立保育所と比べて私立保育所を離職する人が多いことが分かります。

保育士の離職率が高い理由

では、保育士はどんな理由で離職する人が多いのでしょうか?

平成26年の東京都福祉保健局による「東京都保育士実態調査報告書」から、保育士が希望する職場改善希望を具体的に見ていきましょう。

参考:厚生労働省 保育士等に関する関係書類「東京都保育士実態調査報告書」より

給与面の待遇

保育士が求める職場改善希望としては、「給与・賞与等の改善」が約6割と半数以上を占めています。

平成26年の調べですので、その後の保育士の処遇改善によって改善されている部分もあると推測されます。

ただ、それでも保育士は仕事量と給与が見合っていないと言われることの多い職業です。

専門職としては少ない給与、子どもの命を預かる仕事には見合っていない額に不満を抱いている人も多くみられます。

人員不足と仕事量の多さ

次に多い希望が、「職員数の増員」「事務・雑務の軽減」です。

保育士の仕事はとにかく多いのです。子どもとの関わりの他にも、事務作業や保護者対応、行事準備から環境整備まで…。分刻みのスケジュールです。

更には国の保育士設置基準では、手が足りない時間帯がどうしても出てきてしまいます。

もう少し人員を増やしてもらわないと安心して保育ができない、子どもとの関わりや保護者対応の時間を十分に設けるために事務や雑務を軽減してほしいと感じることも…。

勤務時間の長さ

その次に挙げられるのが、「有給などの休暇の改善」「勤務シフトの改善」です。

仕事量が多いけれど、仕事を終える時間がない、人員不足で保育のために残業をする必要があるという保育園は多くあります。

そんな中では有給を取得できる状態ではなかったり、サービス残業が当たり前、残業ありきでシフトが組まれているという状態に…。

プライベートな時間を持てないことは、仕事への意力低下にもつながります。また、忙しすぎて体調を崩すという保育士も少なくありません。

人間関係

次にあげられるのが「職場のコミュニケーション」、人間関係です。

保育園は忙しい職場です。その中で十分に話し合いの時間を持てなかったり、後輩を指導する時についきつい口調になってしまうことで、先輩、後輩、同僚間での関係がぎくしゃくすることも…。

また、上下関係が厳しいという面もあり、園長や主任との関係が上手くいかない、先輩保育士との関係が上手くいかないという理由から離職する人も多く見られます。

離職率が低い保育園の特徴

誰もが保育士になった時には、この仕事を長く続けていきたい、保育士として子どもと関わりたいと思っているはずです。

離職率の低い、働きやすい保育園を選ぶことでその希望が実現する可能性は高まります。

離職率が低い保育園とはどんな保育園なのか?その条件を見ていきましょう。

仕事量に見合った給与

給与は目に見える充実感に繋がります。仕事が大変でも給料受け取ると、「来月も頑張ろう」と感じるという人も多いのではないでしょうか?

しかし、給与が仕事量に見合っていない額だと生活にも余裕がなくなり、仕事へのやる気も半減します

また、保育士の給与を高く設定しているということは、それだけ保育士の仕事を高く評価してくれているということです。

まずは自分が求める給与条件を設定し、それに見合った職場を妥協せずに探しましょう。

人員が豊富

国の設置基準は認可保育所であれば必ず満たしていますが、

  • その人数では十分な保育ができない
  • 勤務時間を全て子どもの関わりに費やすのでその他の仕事ができない

という状態になります。

その結果、残業や持ち帰り仕事をせざるを得ない毎日に…。そうならないためには、子どもの利用人数に対する保育士人数に注目してみましょう。

求人情報にも保育園全体の保育士人数は掲載されていますので、まずは子どもの人数と保育士人数の比率を計算してみましょう。

年齢ごとの子どもの人数に対する保育士人数が、国の設置基準と同じという場合には要注意です

ぎりぎりの人数で運営をしているので、有給取得はもちろんのこと、保育残業をしなければいけない可能性が高まります。

求人情報から、子どもの人数に対する保育士人数に余裕がある場合には、見学の際にクラスにどのくらいの保育士が入って保育をしているかを確認しましょう。

園全体の保育士人数は充実しているけれど、クラスに入っている保育士が少ないという場合には、クラス担任に負担が集中します。

良い人間関係

人間関係は、実際に働き始めないと分からないという部分も大いにあります。しかし、応募前の見学でもある程度は把握することができます。

  • 見学の際、笑顔で挨拶を返してくれるか
  • 後輩が先輩の目を気にして萎縮していないか
  • 先輩保育士の口調は柔らかいか
  • 園長や主任は威圧的ではないか

という点に注目してみましょう。

先輩、後輩の関係を見るのは難しいですが、どの保育士が先輩でその保育士が後輩かが分からないほどに打ち解けている保育園は、先輩、後輩の関係は悪くはありません。

また、園長や主任など上に立つ人の態度は園の雰囲気そのものを表すので、よく見ておきましょう。

求人を出し続けている保育園は要注意

給与などの条件も他の求人に比べると良い、有給取得率の高さも特徴の1つに挙げているという保育園は、良い就職先のように感じます。

ただ、ここで1つ注意してください。求人を常に出し続けていませんか?

いい条件が揃っているのに、常に求人を出しているという園は要注意です。

新しくオープンする保育園では多くの人員が必要なので、早い段階から求人を出し始め、オープンするまで求人を出し続けるということも珍しくはありません。

ただ、応募の締め切りが過ぎて一度は求人を出さなくなったにも関わらず、数か月後にまた求人を出している。

そしてその繰り返し…。という場合には、何らかの事情で働いている保育士が短いスパンで退職している可能性があります。

保育士は基本的には、3月末まで勤めて退職します。

それにも関わらず、年度途中に何度も求人を出している場合には、年度途中に退職せざるを得ない何らかの事情があるのです。

長く保育士として働ける職場を見つけるためには、求人の頻度にも注目しましょう。

まとめ

保育士という専門職を離職することには、給与面や仕事量の多さ、勤務時間の長さなどさまざま理由があります。

私立保育所では特に、勤務年数の浅い保育士が多く、ベテランの保育士が少ないという実態も…。

この状態を改善するためには、保育士全体の待遇改善がなされることが1番ですが、それを待つばかりではなく、自分が長く働きたいという思える職場を見つけることも大切です。

離職理由を把握することで、長く勤めていける保育園を見つけ、保育士としてのやりがいを感じ続けていきたいですね。