保育士不足が深刻な問題である現在。保育士不足解消の糸口として厚生労働省は保育士の処遇改善を進めています。

保育士全体の給与改善策と共に、保育士の能力に合わせた給与アップ政策を打ち出すことで、保育士の離職率を下げ保育士確保に繋げようというシステムの構築も…。

保育士の能力に合わせた処遇改善、それがキャリアアップシステムです。経験年数や必要なキャリアアップ研修を修了することによって、新設された役職につくことができます。

この記事ではキャリアアップ研修とはどんな研修なの?どんな保育士が対象となるの?

研修を受けることによってどんな処遇改善が見込めるのかを詳しく紹介しています。

保育士キャリアアップ研修とは

保育士キャリアアップ研修とは、厚生労働省が発表した保育士の処遇改善の1つである、キャリアアップシステムで受講が必要となる研修のことです。

保育士の能力とキャリアに合わせて、研修を修了することによって、新設された

  • 副主任保育士
  • 専門リーダー
  • 職務分担リーダー

の役職につくことができます。

また、潜在保育士のための研修も用意され、保育士資格は持っているけれど経験がない、ブランクがあるという人が安心して働けるきっかけ作りという目的も担っているのです。

平成29年度から開始されたこのキャリアアップ研修は、全国の都道府県で実施されています。

研修を修了すると各都道府県から修了証が授与され、全国で効力があります。転職して他の都道府県で保育士として働き始めたとしてもその効力を失うことはありません

研修の分野は全部で8つ。それぞれのキャリアに合わせて受講する分野は違います。

1つの分野につき研修時間は15時間設けられ、保育士としての専門知識をさらに高め、その結果が給与アップにつながるというシステムです。

気になる研修内容

8つの分野に分かれている研修内容。分野別に詳しく見ていきましょう。

1.乳児保育

主に0歳から3歳未満児の保育内容を学びます。

具体的には、乳児保育の意義から始まり、乳児保育において適切な環境構成や関わり方、発達に応じた保育内容や指導計画の作成方法など、実践的な能力を身に着けるための分野です。

2.幼児保育

主に3歳以上児の保育内容を学びます。

具体的には、幼児保育の意義から始まり、適切な環境構成や関わり方、発達に応じた保育内容や指導計画の作成方法。小学校との接続を目的としたアプローチカリキュラムなど、実践的な能力を身に着けるための分野です。

3.障害児保育

障害児保育に対する理解を深め、個々の子どもの発達に応じた障害児保育を行うための分野です。

具体的には、障害児保育における適切な環境構成や発達の援助、家族や関係機関との連携や指導系計画の作成方法などを学びます。

4.食育・アレルギー対応

栄養に関する基礎知識や適切な食育計画の作成方法。アレルギー疾患に対する理解を深めると共に、保育所における食事提供、アレルギー対応のガイドライン作成など実践的な能力を身に着ける分野です。

5.保健衛生・安全対策

保健衛生と安全対策に関する知識を深め、適切に対策をする力を養うことをねらいとしています。

具体的には、保険計画の作成と活用方法や事故防止及び健康安全管理、感染症ガイドラインの理解や血液を介しての病気の感染を防止すること。

保育所での事故防止策と事故が起きてしまった時の対応ガイドラインの理解を深める分野です。

6.保護者支援・子育て支援

保護者支援・子育て支援の意義を理解し、保護者に対する相談援助や地域での子育て支援、虐待予防策や関係機関との連携について学ぶ分野です。

7.マネジメント

主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う立場としての役割を理解し、保育園の円滑な運営と保育の質の向上に必要なマネジメント力を身に着けることがねらいです。

具体的には、マネジメントとリーダーシップの理解、組織目標の設定や職員の質の向上のための人材育成、働きやすい環境作りへの対策法を学びます。

8.保育実践

保育士の資格は持っているけれど保育現場での実習経験が少ない人や、保育の現場を長く離れている潜在保育士が安心して保育士として働けるようにするための研修です。

具体的には、保育における環境構成や子どもとの関わり方、身体を使った遊びや言葉・音楽・物を使った実践的な遊びを学びます。

対象となる保育士は決まっている

キャリアアップ研修はどんな保育士でも受講できるわけではありません。経験年数などによって目指すキャリアは違い、受講すべき研修分野は異なります。

どんな条件を満たすことによってキャリアアップができるのかも含め、具体的に見ていきましょう。

副主任保育士

  • 経験年数概ね7年以上
  • 職務分野別リーダーを経験
  • マネジメント+3つ以上の分野の研修を修了
  • 副主任保育士としての発令

専門リーダー

  • 経験年数概ね7年
  • 職務分野別リーダーを経験
  • 4つ以上の分野の研修を修了
  • 専門リーダーとしての発令

職務分野別リーダー

  • 経験年数概ね3年以上
  • 担当する職務分野の研修を修了

マネジメント・保育実践を除いた6つの分野のうち、1つを受講します。修了した分野において、職務分野別リーダーとしての発令をします。

(乳児保育を修了していれば乳児保育リーダー、障害児保育を修了していれば障害児保育リーダーなど)

 

参考:厚生労働省「保育士キャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について」

潜在保育士・保育士試験合格者

保育士資格は持っているけれど、保育所での実習経験が少ない人(保育士試験合格者など)や長期間保育士としてのブランクがある人(潜在保育士)は保育実践の受講が可能です。

スキルアップが給与アップにつながるシステムとは

キャリアアップシステムは、保育士の専門知識を深めると共に、様々な条件をクリアしてキャリアアップをした保育士への処遇改善を行うシステムです。

具体的には、副主任保育士、専門リーダーとしての役職が認められた人には月額4万円、職務分担リーダーとして認められた人には月額5千円の処遇改善があります。

しかし、経験年数を満たせばだれもが研修を受けてそれぞれの役職に就き、処遇改善を受けられるわけではありません。

副主任保育士と専門リーダーは、保育園で働く職員のうち園長と主任を除いた人数の3分の1、職務分野リーダーは園長と主任を除いた職員の5分の1と定められています。

例えば、園長・主任を含め職員が17名働いている保育園では、園長・主任を抜かした15名のうち3分の1である5人が副主任保育士・専門リーダーになることができます。

職務分野リーダーは15名のうち5分1である3名がなることが可能です。

参考:厚生労働省「保育士キャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について」

経験年数が長い職員が多く働いている保育園においては、年数を満たしてもそれぞれの役職に就けないという場合もあるのです。

この上限の範囲内で、それぞれの役職にキャリアアップした保育士の人数分の手当は、保育士に直接支給されるわけではなく、保育園にまとめて支給されます。

そして保育園は支給された額を、キャリアアップした職員に支給する…と決められているわけではありません。

副主任保育士と専門リーダーに支給された4万円の配分は保育園に任されているので、保育園の判断で園長以外のキャリアアップ研修を受けていない職員に配分することも可能です。

ただし、副主任保育士と専門リーダーの中で一定の人数には4万円を支給しなければならないと定められています。

まとめ

保育士確保のためには、キャリアを積んだベテラン保育士の離職率を下げること、潜在保育士の職場復帰を支援することが不可欠です。

キャリアアップ研修の実施、そして研修を受けることによってキャリアアップと給与アップが目指せるシステムは、その両面に有効な政策であると言えるでしょう。

ただ、手当の配分が園に任されているという部分で、適切な配分がされない可能性もゼロではありません。

まだ始まったばかりのキャリアアップシステム。保育の知識を深めると共に、保育士の適切な評価に繋がることを期待しましょう。