しかしいざ保育園で働いてみると、保育士の仕事と保護者対応は切り離せないものということに気づくでしょう。
子どもは好きだけど大人は苦手なのにという人、保護者との関係で煮詰まってしまい仕事がつらいという人もいるのではないでしょうか。
保護者と友達のように話す人さえいる中で、煮詰まっている自分はこの仕事に向いていないのではないかと考えてしまう人もいるのではないでしょうか。
でも実は保護者対応の上手下手は、ある程度経験(訓練)を重ねることで誰でも上手になっていくものなのです。
また、視点を変えることで・・・それは自分が本質的に保育士として磨かれていくことで、おのずと関係性は良くなるものなのです。
ここではどのような視点を持てば良いのかを書いていきたいと思います。
保護者が保育士に求めていること
ずばり、保護者の求めることってなんでしょう。
初めてわが子を抱いて(または妊娠して)保育園を調べ訪れる人は、家に近く通勤に便利か、定員がどうかということを省けば、どんな特色があるのか、自分の子どもに合っているのかを
て入園希望を決めることが多いです。
子育ての専門家であること
どのような特色があるのかというと様々ですが、そこにいる保育士がそれをかなえてくれると思って入園してきます。
それまで妊娠から出産をへて入園までの日々ずっと一緒にいたわが子を人に預けて仕事にいくわけですから、家庭ではできないようなことまでしてくれるなら預けてもいい、と思えるのでしょう。
そして保育士は子育てのプロなんだから、「ちゃんと(発達段階をふませてくれて)育ててくれる」と信じています。
保育士はそれをプロとしてそれをかなえていかなくてはいけません。
子どもを愛し大事にしてくれること
しかしそうは言っても、この「保育」というものはどこまで追及しても終わりがない上に、まだまだこの専門性に自信がないまま保育をしている保育士も多いはずです。
では未熟だったらダメかというと、そうではありません。
実は専門性より何より保護者の心をつかむのが、「子どもを愛し大事にすること」です。
これは経験関係なくだれにでもできる、ともすれば経験を重ねた保育士よりも1年目の保育士の方がこの面で信頼されることさえあります。
例えば実際に私にいた園でのは、保育士3人体制の2歳児クラスがありました。
2人は30代で1人は専門学校を出たての保育士。保育士の現場ではよくあることですが、いつもこの30代の二人に新卒の保育士は叱られていました。
30代の二人はクラスを引っ張っていき、いつもイライラしていて子どもも一目おくけれど身構えていました。
ある日子どもが朝保育園に行きたくないといい、園でお母さんと別れるときに大泣きしているところへ担任が来ますが、この30代の担任が近寄ってくると火が付いたように泣きます。
そして、その担任が忙しくしていると次に来たのが新卒の頼りない感じの担任。
でもこの担任に抱かれると子どもはちょっと安心した表情になり、泣き止んだり抱き着いたりするのです。
たいてい保護者はあれっと気づきます。
帰りに自分に伝達事項を伝えるときも、子どもを見る目がそれぞれどう違うかを感じ取るようになります。
どんなに未熟でも、一生懸命で愛情をもって接してくれている保育士を子どもは好きになります。
そんな保育士に保護者は心からありがとうと思うものです。
自分の子どもと本気で笑い、時には涙してくれる保育士を心から信頼します。
この先生に巡り合えてよかったと思います。
「わが子に合ってるかどうか」というのは、子どもが笑っているかとか、生き生きしているかどうかとか、親自身の価値観がどうみるかとかいうものなのでしょう。
保護者への受け止めがあること
子どもと担任が良い関係だと安心するのが親ですが、それにプラスして保護者への受け止めもあると、保護者は担任を大好きになってくれます。
これは専門知識の部分ではなく、人と人としての気遣いや優しさをもって言葉をかけることができること。これもまた保育士の専門性なのです。
たとえば
「○○ちゃんが食が細いことに悩んでおられること、一緒に頑張っていきましょう。
でもお母さんは毎日仕事も忙しいのにちゃんとご飯作っておられるの、それで十分だと思いますよ。
園でもしっかり体を使って遊ぶことでだんだん食欲がわいてくると思うのです。私も給食の時となりに座って苦手な野菜を励ましていきますね。
お母さんはもう十分頑張っているから、まずは子どもと一緒に食卓について、お母さん自信がおいしい、おいしいって食べてくださいね。」
このように、保護者の想いを受け止めながら、担任として子どもにとって必要と考えてきたこと(食事中ひとりで座らされていたり、お母さんが怖い顔で要求することを改善してほしい)も伝えると、保護者も保育園で来ることに安心し、家庭と保育園の悩みも両方解決に近づいていきます。
保育園における保育士の役割
保育所保育指針でも、保育所の役割として、専門性、養護と教育、保護者支援とあります。
保育士の仕事の中で保護者との関係性は難しいこともあるかもしれませんが、いままで書いたことは、実はすべて保育士の役割として定められていることなのです。
保護者にやってはいけないこと10箇条
保護者との関係性が難しくなるとき、そのときはこういったことをしてしまっているのかもしれません。
- 子どもが園でけがをしたのに、きちんと伝えない。謝らない。笑顔で謝る。見ていなかった、けがの手当てをしなかった、その後の対策も練っていない。
- 杓子定規に「きまりですから」「うちの園ではずっとそうしてますから」「園長がそう言ってますので」と伝える。
- いつも不機嫌、挨拶がない、話しかけづらい。
- 子どもや親に対して、「こんなこともしない、できないなんて」という目で見る。
- 働く親の状況、家庭の状況を顧みないで要求ばかりする
- お迎えに来た親の子どもには優しいのに、ほかの子にはきつい態度
- なんでも「お母さん大丈夫よ」「気にしすぎよ」ばかりで保護者の悩みに向き合わない。
- 保育士同士の井戸端会議、友達同士のようなイマドキの軽口。
- あまりにも社会人としてふさわしくない髪型、ファッション、化粧、言葉遣い、仕事態度。
- 苦情を伝える保護者への苦手意識
これを意識するだけでも、かなり保護者との関係もよくなるはずですよ。
保護者は自分の保育の戦力と考える
たいてい保護者との関係に悩む保育士は、この⑩番目でつまずくのではないでしょうか。
保護者も色んな人がいるので、いつも「ありがとうございます」と笑顔の人もいれば、細かいことをいう人、気分にムラがある人もいます。
怒鳴りこんでくるような人にはやっぱり構えてしまいますし、自分の不満をSMSなどで他のクラスの保護者にも広げていくなどのトラブルメーカーが多いと頭を抱えますね。
モンスターペアレンツという言葉も流行るほど保育士を悩ませるのも保護者です。
ただし、考え方によっては保護者というのは自分の保育の戦力と考えることもできます。
保護者は戦友
子ども以上に大人はその生きてきた歴史の分も色んなタイプの人がいますが、ただし、子供抜きに大人同士出会っていたら関係性を持つのが難しいタイプの人とも、子どもを通してなら良い関係性を築きやすいものです。
なぜかというと、担任がその子を大好きでその子の幸せを心から願っていて、その子も担任が大好きだと、どんな保護者も必ず好意を感じてくれるからです。
保育で上手くいかない点は、変にプライドをもってごまかしたりせず、その子のためにここを悩んでいる、こういう手立てをしていると保護者にも伝えてみましょう。
協力してほしいことがあるならそのことも伝えましょう。
その子のために心を痛め、何とかしたいんだと全力で頑張ってくれる担任に親は必ず力を貸してくれます。
例えば、
- かみつきのある子
- なかなか友達の輪の中に入れない子
- 自分の気持ちが言えない子
- 鉄棒で前回りができなくてやりたくないと言う子
- 人の遊んでいるものをすぐに取ってしまう子
などなど・・・保育士がそういう子を問題児などと捉えてなくて、今現在その子が自分のやりたいことを叶えるのに苦労をしている、
今後も苦労する生き方になってしまう、なんとかしてあげたいと心から願っているとわかれば、保護者も同じ視点で子どもに接してくれます。
子どもをとりまく大人の視点が同じになることほど強いことはありません。
かみつきのある子には、家でも園でも大人がゆったりと接してたくさんスキンシップをし、愛情を伝えるというのを続けようと話す。
自分の気持ちが言えない子には、家でも園でも自分のできることひとつひとつ自分でやること、その子の意見を聞いてもし少しでも伝えてくれたならそれを尊重する生活を大切にしようと共通認識をする。
そのような関わりの中で、子どもは必ず変わっていきます。
目に見えて生き生きと変わってきます。
その変化のひとつひとつを保護者と共に喜びあえるのです。
だんだんどんなに馬の合わない保護者であっても、子育て仲間となり、戦友のような存在になっていきます。
保護者は理解者
そんなふうに保護者とその子の素敵なところも悩みも共有していき、毎日そんな話をするのが楽しみになってきたら、保育はうまくいっています。
保護者は疲れて帰ってきたときに子どもの楽しい様子を聞くのが本当にうれしいものなのです。お互い楽しみになるでしょう。
子育て仲間のいない保護者もそうですが(例えば核家族でお母さんが育児の中心、お父さんはあまり育児にかかわってくれない)、一人担任など特に孤独なもので、今日の面白エピソードやずっこけたこと、悩みなど小さなことでもいいから誰かに聞いてほしいものです。
帰ってから自分の母親にマシンガントークするという若い保育士の話もよく聞きます。
彼氏と会うといつも保育園のできごとの話をするので、彼氏が多少うんざりするという話も聞きます。
保育士の周りで一番そんな他愛もない話を熱心に聞いてくれて、喜んだり笑ったり、一緒に泣いて子どもをほめてくれたりするのは、他ならない保護者なのです。
保護者には伝達事項を伝えるのみ、なんてことをせずそういう理解者にしてしまえば、お互い保育園が楽しくなってきていいことずくめになるでしょう。
また、保育士は園長主任とぶつかりあうことも少なくありません。
自分の意見を言う、自分のやり方を貫きたいというようなときには、必ず違う意見の人とぶつかりあうものです。
それを誰よりも支えてくれるのは、実は保護者なのです。
保護者から大きな支持のあった意見は、園長を動かしてくれることが多々あります。
保育園歴の長い保護者によっては、こちらから言っていなくても園長と意見がかみ合っていないことを察して動いてくれることがあります。
保護者によっては担任よりももっとそういう交渉術にたけていて、例えば、運動会でやりたいと意見を出していた取り組みに頭をひねっていた園長が、次の職員会議では採用してくれて驚いた、というようなことが出てきたりします。陰で保護者がちらりと園長と話をしていたのですね。
保育者にとって自分の保育の一番の理解者は子ども達かもしれませんが、子どもたちと同じくらい担任を理解してくれるのもまた保護者に他ならないのです。
おわりに
このような視点は、小手先の話術ではなく、保育の本質に向かっていくものなので、この視点をもって保護者と関わるほどにその経験が力となっていくのです。
保育士経験を長く続けていけば、転職して今とは違う園で働くこともでてきます。
そんな時はすべてをリセットし、もう一度自分の今までの経験を生かして最初からやってみればいいのです。
つまずいていたような種類のことも、悩んできた分意外とうまくいくものです。
良い人間関係の保護者とはずっと後々まで人間関係が続いていくことがありますが、そうでない場合があってもいくらでもやり直せるのが人間関係です。
だから保護者との関係が上手くいっている人もそうでない人も大丈夫。
悩んだことのある人は改善したい人なのだから、必ず改善できるのです。
上手くいかないときは保育の本質に立ち返り、視点を変え、いつも上手くいくビジョンを心にもってください!
必ず道はその時の自分のベストな方向に続いています!