あなたはいま勤めている、または転職を考えている保育施設の運営形態を考えたことはあるでしょうか?
運営は経営者が考えれば良いと思っているなら大間違い。
なぜなら、あなたに支払われている給与や待遇が適正かどうか知るためにも、運営の裏側を知り賢くなる必要があります。
腹黒い経営者が裏でウハウハ…していたら、嫌ですよね。
社会福祉法人と株式会社など保育施設はさまざまな運営形態があります。
この記事ではそんな2つの設立の成り立ち、設立基準、補助金など誰が見てもわかりやすくなるようにまとめてみました。
保育施設の運営について、すでに働いている/転職をして働こうとしている方の参考になれば幸いです。
目次
株式会社は新しい?社会福祉法人と株式会社の違い
私立保育園の運営母体は、現在もほとんどが社会福祉法人です。株式会社の保育施設が増えてきたのは最近のこと。
2000年まで認可保育施設の運営母体というのは、市区町村と社会福祉法人に限られていたからです。
つまり、認可保育施設といえば、社会福祉法人しかありませんでした。
社会福祉法人と株式会社の運営は全く違います。大きく比較した表がこちらです。
内容 | 社会福祉法人 | 株式会社 |
事業目的 | 福祉事業であること | 特になし |
資金 | 寄付金・補助金など | 株式・債券発行など |
設立のための人数 | 理事6名以上など規定あり | 経営者1人でOK |
税金 | 原則非課税 | 課税 |
最も大きな違いは「非営利」か「営利」です。
保育がお金儲けになる!?という想像はなかなかできないものですが、株式会社の保育施設を増やそうとしたことには理由があります。
まずは社会福祉法人と株式会社の成り立ちと制度の違いから理解していきましょう。
社会福祉法人の保育園の特徴
社会福祉法人はあくまでも非営利企業であり、地域のために活動しています。
社会福祉法人の成り立ちは、戦後まもなくの頃に社会福祉事業法が制定され、現在の社会福祉事業ができあがりました。
社会福祉法人とは「社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人」と定義されています。
主に特別養護老人ホームや保育所、障害者支援など福祉を必要とする人の生活の手助けをしています。
社会福祉法人は、補助金や寄付金を資金として運営されていて、非課税が原則です。
そのため、保育施設の多くが現在も社会福祉法人なのです。
- 社会福祉法人の保育施設数14.493
- 営利法人(会社)の保育施設数 1.686
2000年から株式会社の保育施設が増えたとはいえ、厚生労働省の資料を見てわかるように、社会福祉法人保育施設が圧倒的に多くなっています。
株式会社の保育園の特徴
保育所の設置主体制限の撤廃(2000年)により、ようやく株式会社の保育施設が認められるようになりました。
その背景には日本の社会問題となっている、保育所の待機児童問題があります。
2000年以前と同じように社会福祉法人に限ったまま、保育所数を増やすという方法もあったのでしょうが、最小コストで最良・最大のサービスを目指すためにも施設の運営は民間を極力活用し、最小コストでの実現を図ると政府は決定しました。
株式会社の保育施設を増やすだけではなく、保育サービスの多様化も課題でした。
株式会社等を参入させることで、より効率的な経営や利用者のニーズにあった保育施設を作りたかったからです。
株式会社保育施設が認められたことで、働くお母さん(もちろんお父さんも)はとても助かっています。
有名なところでイオンモール内にある「ゆめみらい保育園」では、社員のお子様はもちろんのこと、買い物に来たお客様のお子様も預けられます。
ホームページには2016年から企業主導型保育事業として開園していることが記載されています。
イオンが運営しているためショッピングモールの営業時間に合わせて開園しています。イオンの従業員は安心して働ける環境が作られています。
働く社員にもお客様にも喜ばれるイオンモールの保育園は大成功ですね!
ショッピングモールに来るお客様のニーズに合わせているので、集客もばっちりです。
社会福祉法人の保育施設で働く3つのメリット
保育施設の多くが社会福祉法人です。
株式会社の約10倍の数で全国展開しているのですから、転職先に保育園を探す場合、情報誌に記載されている施設のほとんどが社会福祉法人でしょう。
歴史ある社会福祉法人ですが、保育施設として完璧なわけではありません。世の中すべてにおいて、良い面の裏側には悪い面があります。
社会福祉法人で働くメリットとデメリットをまとめてみました。
メリット1:歴史が長く基盤がしっかりしている
社会福祉法人は、長年の運営経験がありそれだけの基盤や安定感があります。
歴史が長いということは、ベテランの保育士さん、中堅保育士さんがしっかりと伝統を支えている施設が多いということです。
先輩たちがあなたの教育や指導をしっかりとしてくれます。
世代交代が成功している園ならではの土壌があり、先輩から教わった技術を高めていけるでしょう。
メリット2:待遇や福利厚生が充実している
大きな社会福祉法人が経営している保育施設では、待遇や福利厚生が整っています。産休・育休の制度もしっかりとしている保育園も多いのが特徴です。
福利厚生などがしっかりしている園は離職率も少ない傾向にあります。
ただ、すべての社会福祉法人が、しっかりと整っているわけではないので、就職するときには情報をよく調べておきましょう。
メリット3:自分に合った保育方針を探せる
現場でよく言われる言葉に「保育に正解はない」があります。
保育士を目指すきっかけは人それぞれですが、学校で多くのことを学んできたり、難しい試験を合格して保育士資格を保有した人は、しっかりと心に秘めた保育指針を持っています。
- マナーを学ばせる園
- 運動に力を入れる園
- ゆったりと遊び心の豊かさを大切にしている園
など保育園には1つ1つ違った理念や保育指針があります。
運営母体が社会福祉法人は全国最多。あなたが働きたいと思える園がきっと見つかるでしょう。
社会福祉法人の保育施設で働く3つのデリット
長い歴史から受け継がれた伝統や理念に基づいて、多くの素晴らしい保育士を育成してきた社会福祉法人の保育施設。
福利厚生など働きやすい環境の保育施設もありますが、この長い歴史や独特な経営形態がデメリットとなっていることも…
社会福祉法人の保育施設に勤めるデメリットは下記の3つです。
デメリット1:家族経営が多い
家族で経営している保育園では権力が集中しているところもあります。
同僚が園長の娘で、待遇が違うということはよく聞く話です。その権力のある立場の人から気に入られないと、居場所がなくなることはありえます。
子供にいじめはいけないことと伝える「先生」が、裏では…。
悲しい事実ですが、権力が絡むと人間関係に悩む職場になりがちです。
デメリット2:チャレンジはしない、問題改善はしない
歴史を持っているため、今まで行っていたことこそが正しいことだという考えが染みついています。
新しい保育への取り組みに消極的であり、新しいことをしたいと言える雰囲気はほとんどありません。
新たなチャレンジだけではありません。
目に余るような保育指導方法、事故対応など重大なトラブルなどがあっても「いままで、こうやってきたことだから」と改善策を新たに考えない場合もあります。
あなたが疑問や憤りを感じた時には、周りを説得するよりも辞めようと行動する可能性が高いかもしれません。
デメリット3:新しい〇〇が買えない
非営利企業なので新しい環境の整備などができないこともあります。
海外からやってきた、今までなかったおもちゃや知育道具。
これがあれば仕事も楽になるだろうと思えるグッズや環境整備のための備品の購入に消極的です。
新しい物やサービスがどんどん誕生する中で、なにも買えないのは辛いです。
株式会社の保育施設で働く3つのメリット
保育施設の多くが社会福祉法人であるため、株式会社の保育施設を見つけたら必ず目を通しましょう。理由は珍しいからです。
2000年以降、どんどん増えている株式会社の保育施設ですが、営利目的の保育って大丈夫なの?と不安に思う声もあがっています。
株式会社の保育施設にも、もちろん良い面の裏側には悪い面があります。
株式会社の保育施設で働くメリットとデメリットをまとめてみました。
まずは、株式会社の保育施設の良いところをです。
メリット1:業務の効率化・IT化など新たな取り組みに積極的
株式会社は営利企業です。
「利益」を出さなければならないので、少しでも効率の良い仕事をしようと日々業務改善に力を入れています。
事務作業に関してもIT化を進めていたり、独自のプログラムを取り入れているなど、新しいことに色々と挑戦している傾向にあります。
利益を上げることを目的として保育運営をしている株式会社だからこそ、既存の古い保育概念を覆して新しい保育のサービスを作り上げていく会社が多いのです。
メリット2:利益が多ければ年収があがる
株式会社が運営する保育園で働くことの大きなメリットは、保育園が利益を出すことを目的で経営できるという点です。
あなたやその周りの職員が頑張れば、その努力はお金となって帰ってきます。
また福利厚生は社会福祉法人のメリットに記載しましたが、株式会社の保育施設でも整いつつあります。
経営がかなり順調で、利益があがれば保育士への待遇や処遇がよくなっていきます。
頑張りがお金に反映されたらモチベーションがあがりますよね。
メリット3:意見が出しやすい
新しくオープンした園なども多いので、若手から意見がバンバンでて、良い保育ができるように改善していくことが可能です。
また中堅、ベテラン保育士が尊重される現場ではなくまさに能力主義。
家族だからと良い待遇だった同僚に理不尽だと言えない葛藤を抱えずに済むことが多いです。
そのため株式会社の保育施設の方が人間関係も築きやすいと感じる方もいるでしょう。
積極的に環境や保育方法をチャレンジできるパワフルな職場です。
株式会社の保育施設で働く3つのデメリット
株式会社の保育施設はでは意見も言いやすく、頑張った分だけ成果が目に見える職場で利益が出れば、素晴らしい職場です。
では、利益がでなかったらどうなるのでしょうか?
あの手、この手でどんどんお客様を増やしていかないと、株式会社の保育施設は利益がでないので職員にお給料が払えなくなります。
補助金で運営している社会福祉法人の保育施設との違いは、まさにここです。
株式会社の保育施設のデメリットは下記の通りです。
デメリット1:利益が出ない場合は人材が悪くなる可能性が高い
株式会社なので利益が出せないのであれば、倒産のリスクがあります。(社会福祉法人が潰れないわけではないですが)
さらに人件費を削ろうと保育士を正社員として雇わないで、非正規雇用の保育士が多くなってしまうことがあります。
非正規雇用の保育士が質が悪いとは限りませんが、保育士の世界はシビアです。
正社員の時にはサービス残業をしていたのに非正規職員になると「時間なので帰りますね」とあっさりした対応…身に覚えもあるのではないでしょうか?
利益がでなくなると、人員配置も悪くなる悪循環に陥る可能性は社会福祉法人よりもあるかもしれません。
デメリット2:現場を理解していない
経営者は、経営を考える人であり保育現場という特殊な場所を把握している人は、残念ながら少ないの現状です。
「保育理念」よりも「利益」が大切な株式会社の保育施設では、経営者が現場を知らなくて無理難題をいわれ対応できず保育の質が低くなること。
しっかりと保育に力を入れている営利団体であれば、
- 環境の整備
- 職員の研修
- 魅力的な保育プログラム
などに力を入れているので、就職する前に一度見学に行くことをおすすめします。
デメリット3:ベテランが少ない
まだまだ歴史の浅い株式会社の保育施設。
保育現場で経験を重ねたベテランの保育士がいないため、なにか大きなトラブルがあってもその対応記録もなく、自身の能力と決断で解決をしなければならないこともあります。
ベテラン保育士がいないことで、芯の通った保育理念を持つことができず、保育についてみんなで話し合い、改善を続けているつもりがブレてしまい保育の質が落ちてしまったりすることもあるでしょう。
経営者に相談をしても保育現場がわからなくて、どう対応すればよいのかわからない。
子供の命を預かる現場では一瞬の判断が生死を左右することもありえるので、ベテランがいないことはデメリットでもあります。
まとめ:働くならどっち?あなたのワークスタイルで考えよう
株式会社と社会福祉法人というのは運営方法が全く異なることが理解できましたでしょうか?
メリット、デメリットはどちらの運営母体にもありました。
運営の裏側を理解したうえで、求人サイトや情報誌を開いてみましょう。魅力的に思える園があったなら運営母体を確認しながら、経営や方針、どんな保育に取り組んでいるのかと頭でしっかりと考えて、見学などをしてあなたの目で確認していく必要があるでしょう。
社会福祉法人か株式会社…それぞれの魅力的なところと懸念のバランスを考えながら、あなたに合う保育施設を見つけていきましょう。