子どもが安全に怪我なく過ごせる環境を整えることは保育士の1番の仕事です。しかし、保育所では実際に様々な事故が起こっています。
受診の必要がない怪我から救急車を呼ぶほどの大怪我。そして中には命に関わる重大な事故も…。
子どもの命を守り、安全に過ごせる環境を整えるために。保育所で実際に起きている事故を知ることは、事故を防ぐための第一歩です。
実際に起きている事故を元に、事故が起きないための対策を考えていきましょう。
死亡事故の多くは午睡中に起きている
厚生労働省の調べによると、2016年に起きた保育所での死亡事故は13件。そのうち10件が睡眠中に起きています。
参考:厚生労働省「平成28年度教育・保育施設等における事故報告集計」
うつ伏せ寝の禁止や0,1,2歳児では睡眠中の5分間チェックの重要性が周知されつつある現在においても、睡眠中の事故がなくなることはありません。
連絡帳の記入や職員会議への出席、事務作業など、保育士は多くの仕事を抱え午睡中に行うことが多いかと思います。
しかしこの結果を目の当たりにすると、どの仕事よりも睡眠チェックを重要視するべきだと改めて考えさせられます。
睡眠チェックは子どもの命を守ることはもちろんですが、今後の保育士人生を守るという意味でも重要な意味を持ちます。
子どもの死亡事故が起きた時には、「保育士がしっかりと見ていなかったのではないか」と誰もが思います。実際に、5分おきのチェックをしっかりと行っていれば、守れた命もたくさんあったでしょう。
1番大切な子どもの命をまもるために、保育士が余裕を持って仕事ができるような人員の配置を保育所側にも求めたいですね。
プール遊び中の事故の危険性
子ども達が大好きなプール遊び。夏ならではの楽しい経験ですよね。しかし、楽しいプール遊びが一転、子どもの命を危険にさらす重大な事故に繋がる恐れもあります。
2017年に起きたさいたま市の認定こども園でのプール事故。4歳の女の子が保育士が目を離した30秒から1分程度の間に命を落としました。
また2014年には、神奈川県大和市の幼稚園で3歳の男の子がプール遊び中に死亡するという事故も起きています。
大和市の幼稚園では、水深は20センチほどという浅いプールでの事故でした。
子どもは10センチの水深でも溺れる可能性があります。
顔が水に浸ったことにパニックになり、自分で顔を上げることができないからです。
また、プールの周りで走って転倒し、頭をぶつけるなどプールの外にいても事故が起こる可能性はあります。
プール遊びの時には
- 全員の子どもに目を配れる人数の保育士を配置する
- 危険性を話し合いシュミレーションを行う
- 準備や片づけは子どもがプールに入っている間は行わない
ことを徹底することが、プール遊び中の事故防止に繋がります。
プール遊びは楽しい活動であると共に、危険な活動でもあることを保育士間で周知していきたいですね。
乳児クラスで多い事故、誤飲
0,1、2歳児クラスで多いのが、誤飲による窒息事故です。
乳幼児が大きく口を開けた大きさは約39mm。母子手帳にも記載があり身の回りの物で示すと、ラップやトイレットペーパーの芯と同じくらいの大きさです。
この大きさよりも小さなものはどんな物でも誤飲の可能性があります。特に誤飲の危険性が高いのが0,1歳児。
手にした物を何でも口に入れる0歳児はもちろんのこと、1歳児クラスでもまだまだ口に入れる子どもも多いのです。
ハイハイができるようになり、行動範囲が広がるとますます誤飲の可能性は高まります。
異年齢児との合同保育を行っている場合には特に、0,1歳児の手の届く範囲に小さな玩具や破くことの出来る絵本がないかということに十分注意しましょう。
⇒異年齢保育を行うことのメリット・デメリット!ねらいや注意点について
戸外遊びで多いのが、砂場の砂を口にいれてしまう子どもです。保育士が少し目を離したすきに砂をつかんで口の中に…。
誤飲の危険がある年齢では少人数ずつ分けて砂遊びを行うなど、保育士の目が常に行き届く配慮をしましょう。
食事中にも誤飲事故は発生します。2007年には青森県の保育所で1歳児がりんごを喉に詰まらせ窒息。意識不明となる事故が発生しています。
また、2012年には栃木県の保育所で白玉を喉に詰まらせ2歳児が死亡する事故が発生し、同じ年の2月には東京都の保育所で1歳児が白玉を喉に詰まらせ死亡する事故が発生しています。
年齢に合った食材を使った食事やおやつの提供はもちろんですが、同じ食材であってもあらかじめ小さくした状態で提供するなど大きさの配慮も必要です。
食事中の誤飲による事故は、玩具を口に入れることの多い0,1歳児だけではなく、どの年齢の子どもにも起きる可能性がありますので、栄養士との連携を密にとりながら防ぐ必要があります。
大怪我に繋がるおそれのある事故
園庭で走っていて転び膝を擦りむくなどの小さな怪我は、ある程度仕方がない部分もあります。転ぶからといって子どもが園庭で走るのを禁止するわけにはいきませんし、子どもの発達の妨げになります。
園庭の整備と足をあげて走るような指導、靴のサイズが合っているかの確認など、保育士ができることをすれば十分です。
しかし、保育所では病院の受診が必要な大怪我も常に起きる可能性があります。その様な事故は、極力起こらないような対策が必要です。具体的な状況と対策を見ていきましょう。
園庭、公園の遊具での事故
園庭や公園の滑り台やブランコ、ジャングルジムなどは子どもが好きな遊具の定番です。しかし、それらの遊具には危険も伴います。
厚生労働省が平成13年に発表した「児童福祉施設等が設置する遊具で発生した事故調べ」によると、平成12年に保育所で発生した事故件数は624件。
そのうち1番多いのが滑り台で514件。
事故原因は転落、落下が1番多く427件でした。
参考:厚生労働省より
大分前のデータではありますが、保育所に設置されている遊具での事故が多いのは事実です。
ではどの様に事故を防げば良いのでしょうか?
遊具での事故は誤飲や睡眠中の死亡事故とは違い、3歳以上児で多く起こります。
そのため、まずは遊具を使う時の約束事を子どもと決めておきましょう。
具体的には、
- 滑り台は前のお友達が滑り終わってから滑る。
- 滑り台の頂上では絶対に他の人を押さない。
- 滑り台から乗り出さない。
- 滑り台の滑る部分から上らない。
- 階段を逆に降りない。
という約束事を作ります。
そして、遊具を子どもが使う時には必ず傍に保育士がつきます。子どもがふざけていたり、約束を忘れている時には声を掛け、安全に遊べるように常に見守る必要があるからです。
ブランコでは、柵の中に入らずに待つ。ジャングルジムでは友達を押さないなど、それぞれの遊具に合わせた約束事を作っておくと良いでしょう。
また、子どもが怖がっている遊具は無理に挑戦させないようにします。
自分で上ることができる遊具はたいていは安全に降りることができますが、保育士に促されて上った遊具は降りる時に恐怖心が湧き、転倒する恐れがあるのです。
自主的に遊び始めない限りは、やらせないことも重要です。
転倒による裂傷や打撲
歩き初めで歩行が安定しない時期や、友達との遊びが活発になってきた時に多いのが、転倒による裂傷や打撲です。
歩き始めの時期は、特に何かにぶつかったわけでなくてもよく転びます。
転んだ時に運悪く口をぶつければ唇や上唇小帯を裂傷しますし、歯をぶつければ歯科の受診が必要となり、酷い場合には乳歯が抜けてしまうこともあります。
また頭をぶつけてこぶができたり、転んだ時に手が付けずにおでこや頭を切ってしまうこともあります。
全ての転倒を防ぐことは不可能ですが、子どもが歩く場所には玩具を置かない。戸外活動の際には、つまづくような物がないかなど事前に確認をするなどの配慮をすることで、重大な事故を減らすことはできます。
年齢が高くなっても転倒による事故が起きる可能性はあります。
友達とトラブルになって押され、椅子や机に頭をぶつける。友達と追いかけっこやじゃれあっていて転倒し歯をぶつけるなど、転倒による事故の危険性は常につきまといます。
友達との関りの中での転倒は、怪我に繋がりそうな時には保育士が仲裁に入ったり声を掛けて落ち着かせることで減らすことが可能です。
3歳以上児になると保育士が間に入らなくても、子ども同士で遊ぶことが増えますが、怪我に繋がらないように見守ることは必要です。
ヒヤリハットを共有することで事故は減らせる
ヒヤリハットという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
重大な事故には至らなかったものの、事故に直結してもおかしくない一歩手前の事象を指します。ヒヤリとした、ハッとしたが語源になっています。
保育の中ではヒヤリハットは多く存在します。
例えば
- 遊具から落ちそうになった時に慌てて支えた
- 赤ちゃんが絵本をちぎって口に入れる直前であった
- 友達に噛みつきそうな瞬間に慌てて止めた
- 食事中に子どもが食べ物を喉に詰まらせ、背中を叩いたら吐き出した
など、毎日がヒヤリハットであふれていると言っても良いほどです。結果的には事故や怪我には繋がっていませんが、事故の一歩手前…。
このヒヤリハットは自分の経験として保育に活かすことはもちろん重要ですが、保育士間で共有することで保育園全体の事故を防ぐことにつながります。
事故を起こしかけてしまったという思いから、会議などで伝えない保育士もいますが、それでは他の保育士が次に同じような状態に陥った時に防げる可能性が減ってしまいます。
自分がヒヤリとした経験だからこそ、他の保育士とも共有しましょう。
保育所の設備を改善することで防げる事故であれば改善する必要がありますし、保育士の行動で事故を防げるのであれば、共通理解をする必要があります。
ヒヤリハットを共有して、保育所全体で子どもの安全を守りましょう。
まとめ
絶対に起きてはならない園児の死亡事故。そして、防ぎたい大怪我に繋がる事故。もちろん保育士は皆同じ気持ちであると思います。
しかし実際に事故は起こり、防ぎきれていないことが現状です。事故の実態を知ることは、同じ事故を起こさないための第一歩です。
自分1人だけではなく、保育所全体で事故の危険性やヒヤリハットについて話し合い、子ども達が安全に保育所で過ごせるように、そして保護者が安心して子どもを預けられる様に努めていきたいですね。